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第994号 発達障害、葛藤と決意

“発達障害”とお聞きすると、どの親御さんでもドキッとなさり、又、強い不安をお持ちになると思います。

特に発達障害は、幼少期にはとても分かりずらい事もあり、又、専門医でなければ診断が難しく、

お子さんに違和感を感じていたり、トラブルや意思の疎通が取りにくいな・・・と思っているうちに年月だけ経ってしまい、子供は怒られたり叱られたりすることが増えて改善が難しくなってしまう・・・というケースが少なからずあります。

今日、ご紹介するkokoroさんも娘さんが2年生の時に専門医に受診をして、自閉症スペクトラムであると診断されたのですが、kokoroさんから一番最初にご相談を頂いたのは、娘さんが1年生の時。

それもkokoroさんが「どうしてもきつく怒ってしまう、怒りが止まらない」とのご相談で、子供にきつく怒ってしまうのは自分のせいで、こんな自分だから、娘さんによくない影響が出ている・・・とお考えでした。

が、kokoroさんからのご相談を何度もお聞きしているうちに、私は「これって、kokoroさんのせいではなく、娘さんに怒りたくなってしまう理由があるのでは?」と感じる様になりました。

私がこの仕事をし始めて、もう15年目になろうとしていますが、当初は子供に発達障害の傾向があったとしても、あまりそれをお伝えすることはしていませんでした。

それは、まずは親にショックを与えたくなかった事。それに受診をしてはっきり診断がされても、それで子供が変化する訳ではないし、子供の特性を良く知ってもらって親の姿勢さえ変えてもらえば、子供もプラスに向かう事が分かっていたからでした。

が、何年かそれでやってはきたものの、発達障害を持っている子供に接する親の姿勢を変えてもらう事は、かなり難易度が高い事が分かり、

それならば(ショックを受けるでしょうが)きちんと診断を受けてもらって、子供の苦手な事や、難しい部分を知ってもらおう・・・という形に変えてから、もう7・8年になろうか?と思います。

kokoroさんの場合、私が「一度専門医に診断してもらう必要があるかもしれません」とお伝えしたのは小学校1年生の時で、なぜ私がそれを感じたのか?と言うと、

娘さんが学校から帰ってきて宿題や明日の支度などやることは沢山あるのに、手を洗いにいっても鏡に霧吹きをしたり、石鹸で遊んだり、一向に手を洗う事がままならない。

又、何をするにしてもとても時間がかかり、学校でも時間内に終わることが少なく、ほぼ毎日、追加の宿題を持ち帰ってくる・・・とお聞きしたことでした。

それも「自分だけが時間内にできない」と感じていて、家で宿題をやっていても、消しゴムのカスで遊んでいたり、ぼーっとしていたり、

kokoroさんが「時間がないよ」と急かしても一瞬はやる気になった娘さんもすぐに又、違う世界に行ってしまう・・・という状態だったとあったからでした。

何度も注意をして、その時には「はっ」と気付く娘さんも、すぐに又、遊び始めたり、別なものに興味が移ったりして、すべきことが遅々として進まない。

一時が万事、その調子であれば、親としてはイライラしますし、怒りたくもなります。

kokoroさんが、イライラして、きつく怒ってしまっていたのは、毎日繰り返されるこれらの事からでは?と感じたのですね。

ただ、kokoroさん、私が「受診をされてみたら?」とお勧めする前に、ご自分でも気になって、幼稚園の先生、発達障害の子供がおられるお母さんのカウンセリングを何件もされているご友人、そして大ベテランの担任の先生にも相談をされていました。

そして、その全員が「大丈夫。発達障害だとは感じない」と言われていたこともあり、受診することに躊躇されているようでした。

最終的にkokoroさんは、信頼できる小児科の先生に小児神経科の先生を紹介してもらい、受診の依頼をするのですが、電話をしてから受信ができるまでに約半年の時間が必要でした。

それまでできる事を・・・とkokoroさんも頑張って、娘さんにも良い変化がたくさん現れてきたので、受診をキャンセルしようとも思ったそうですが、念の為に受診。

そして結果的に、自閉症スペクトラムである・・・という診断を受けたのでした。

kokoroさんご自身も、大変なショックを受け、一時はとても悲観的な毎日を過ごしておられた・・・との事でしたが「子供たちが将来、幸せな毎日を送れるよう、今、頑張ろう!」と気持ちを切り替えて、奮起をされたのです。

まず始めたことは「自閉症スペクトラム」とは何なのか?という娘さんの持っている特性の勉強でした。さまざまな本をお読みになったり、セミナーを受けたりされたそうです。

苦手な事を厳しく指摘するよりも「できる手助け」を考えたり、難しい事は手伝ったり、又、小さな「できた」をたくさん褒めたり、良くなってきたことを評価したり、

そして、娘さんの特性に合う方法を試行錯誤して、友達をご自宅に呼んで様子を見守り、「こうしたら上手く行くよ」とか「こんな時はこうした方が良いね」など一緒に反省会をしたり、授業の内容も先に予習をして、一緒に頑張られたそうです。

その結果、娘さんは、学校でもあまり孤立したり、特異な目で見られることもなく、友達とも溶け込み、勉強でも良い成績が取れたり、なんと学級委員にも立候補するほど学校生活を楽しんでくれているようです。

自閉症スペクトラムのお子さんで、これだけ学校や友達に馴染めているのは珍しい事でもあるのですが、お話を聞く中で「なるほど♪」と感心したことがありました。

それは娘さんのサポートブックを作成して、先生にお渡ししてあったそうなのです。

『サポートブック』を初めてお聞きになる方もおられるかもしれませんが、分かり易く言えば、西野カナさんの「トリセツ」のように、「こんな部分がありますから、こんな時にはこうしてね」とまとめたものです。

又、サポートブック・・・と言うと、インターネットでダウンロード出来たり、それを作る為の専用の書籍が販売されていたりしますが、不要な情報が多すぎる割に、具体的な事が書かれておらず、それを渡された先生も読むのがウンザリしてしまうような物がほとんどです。

ところが、kokoroさんの作られたサポートブックは、A4の紙5枚からなるものですが、非常に具体的で分かり易く、先生が知りたい情報がきちんと明記されていて、とても良い作りでした。

今回、このメルマガで紹介する上でも、そのサポートブックについてお話をさせて頂き、同じように発達障害のお子さんがいらっしゃるお母さんたちにも参考にしてほしい、という思いからご承諾を頂いたのですが、

kokoroさんご自身も「いろんなサポートブックを見ましたが、娘には合うものではなかったので、どうすれば(第三者に)特性を理解し、サポートをして頂きたいことが伝わるか、試行錯誤を繰り返しました」と言われていましたし、

ご覧になった担任の先生や、教務主任の先生からも「こんなサポートブックは見たことが無い、分かり易くてとても勉強になります。」と言ってもらえたそうです。

学校の先生・・・とは言っても、発達障害の特徴について熟知されている先生はとても少なく、専門に勉強してきた支援学級の先生でも、

どの子がどんな特性を持っているか?についてはその子とじっくり付き合わなければ分からないし、どういう対処が最良か?もいろいろ試してみるしかないのです。

ですから担任の先生が替わるたびに、全ての先生が0からのスタートで、子供の特徴を理解してもらう頃には、何カ月も無駄にしてしまう、という事も少なくありません。

ですが、小さい時から一緒にいて、その子の特徴をよく知っているお母さんが、対処法なども細かく伝えてくださったら、先生としては悩むことが少なくなるだけでなく、スムーズに授業やクラス運営をする為にも大きなメリットになるんですね。

ただ、その為には、誰よりも親が子供の特性を理解してあげることがとても大事なのです。

kokoroさんは、自閉症スペクトラムという娘さんの診断を受けることで、自閉症スペクトラムについて熱心に学び、そして娘さんの様子と照らし合わせて、先生に

「こういう傾向がありますので、こうしてもらえるとありがたいです」とか「これについては、家庭でこのようにやっています」と項目ごとに書いて先生にも協力をして頂いているのです。

全てをご紹介できないながらも、できるだけ実物に近くご説明をさせて頂きたいのですが、まず第1ページにはこのように書かれています。(抜粋)

ココから・・・

はじめに・・・○○年○月○日にASD(自閉症スペクトラム)の診断を受けました。

ASDについて勉強をするにつれ、これまで彼女は不安と孤独の中にいたんだなと、親としてその不安や孤独を理解し寄り添えなかった申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。

同時に、もっと彼女の世界を詳しく知りたい!どうしたら彼女は生きやすくなるのだろうか?という気持もわいてきました。

彼女の世界では目で見て確認する、という事が非常に大切です。先天的に大多数の人とは異なるからです。

『見えること』は、あること(もの)→ 考えが及びできます。
『見えないこと』は、ないこと(もの)→ 考えが及ばずできないからです。

おのずともののとらえ方や感覚も異なっています。私たちが当たり前に過ごしている日常が彼女にはそうではありません。

日常生活は些細なことの連続です。その些細な事に困難をかかえていると毎日はとても疲れます。

最近「どうして私はみんなのようにできないのだろう・・・。がんばってもがんばってもみんなのようにできない・・・」と涙することがありました。

少しずつ自分と周りの違いに気づき始めているようです。

彼女の困難さによりそって「どうしたらできる?」を一緒になって考えてくれる人が一人でも多くいたら、彼女の毎日は安心して生きやすく、希望にあふれるものになると思っています。

日々のちょっとした工夫や手助けで、彼女の学校生活が少しでも楽になれば・・・。外からは見えない彼女の内面の世界(心の中)をどうか知って頂きたく、日々の困りごとを拾い上げ、主治医の○○先生にも指導・助言をいただき、サポートブックを作成しました。

参考にして頂けたら幸いです。

ココまで・・・

特にkokoroさんとしては、主治医の先生のお名前を入れることで、このサポートブックの信頼性を高め、独りよがりではない事をアピールし、できない事を羅列するより「こうして頂ければ○○できます」と具体的かつ肯定的に記載することを心掛けたそうです。

2~5ページには、項目別に「大まかな状態」、「具体的な現状と問題点」、「家庭・学校での工夫とお願い」と、1ページを3分割して書かれています。

例えばこんなこんな風に・・・

■項目:急にできた自由時間

現状と問題:自由度が高いと何をしたらよいか分からず、混乱し動けなくなる。「何をしたらいい?」「何をしていればいい?」(と不安になる)

家庭・学校での工夫とお願い:グループ作り、急にできたフリータイムなど一人でポツンとしているような事があれば、声をかけてきっかけを作って下さると参加できます。

※上記は紙面の都合上「項目」「現状と問題」「家庭・学校での工夫とお願い」を上から下に書いてありますが、実際の用紙は表になっており、横に並んで見やすくなっています。

他にも・・・
■項目:クラスでの役割・係

現状と問題:その役割の内容がみんな自然と分かっていて動いているけれど「私には分からないんだ」と言います。

家庭・学校での工夫とお願い:どんな役割なのか、役割の内容や、どうしてその役割が必要かを具体的に説明してくだされば、まじめにその役割をこなせます。

■項目:なれない相手や多数の相手との会話、相手のジェスチャーや表情から理解することが難しい

現状と問題:女子トークでは特に、話がどんどん飛び交って、誰が誰に発信しているかが分からない(音の拾い方に違いがあるため)発言するタイミングも難しい。慣れた相手だとそれなりにタイミングも話の内容も予測できる。

家庭・学校での工夫とお願い:(家)好きなアニメやマンガ本で視覚的なコミュニケーションを勉強中。友達を家に呼んで様子を観察。友達が帰った後、もっとこうすればうまく行くんじゃない?と絵に描いて提案・アドバイスをしている「分かった。次はそうしてみる!」

■項目:理解の落としどころが違う

現状と問題:目的・意義・意味が分からないと気持ちが悪くて先に進めない。頭の中を「なんで?」「どうして?」がいっぱいになり混乱してしまう。「そういうことってどういうこと??よけいわからない」

家庭・学校での工夫とお願い:(家)うやむやにしないで、本人の疑問に寄り添い、一緒に調べる、考える、解説をする。※目的や意味をあいまいにせず、はっきりさせてもらえると次に進めます。

■項目:視覚・嗅覚過敏

現状と問題:苦味(薬物系)酸味(果物)のあるものは口の中がピリピリと痛む。初めて食べるものは中に何がはいっているのかわからないのでとても不安。匂いの強い物(キムチ等)はとても耐えがたい

家庭・学校での工夫とお願い:(家)毎朝、献立表で何が入っているか確認しています。→安心して給食にのぞめます。(学校)減らして食べる、食べなくてもOKとしてもらっていました→給食時間も苦痛なくすごせました。

■項目:光刺激過敏

現状と問題:雨上がりや特に天気のよい日は、太陽の光が目を刺すように痛く感じ、目を開けていられない→下を向いてしまい授業が難しい事もある。下をむくあまり人や物にぶつかることもある。

家庭・学校での工夫とお願い:(学校)外での体育の授業ではクラス全体に「太陽を背にして先生の方を向いて」と授業をしてもらっていました。→「とてもうれしかった!」と話してくれました。※理科の日食の観賞は難しいからもしれません。

■項目:触覚過敏

現状と問題:皮膚とふれあうもの、しめつけ加減に違和感があると、とても苦痛で精神的な消耗が激しい→靴下でもすぐ脱いでしまう。「この服、ピタッとして着てられない」とイライラ、癇癪を起す。静電気などで髪の毛がフワフワするのも耐え難い。

家庭・学校での工夫とお願い:(家)綿100%のものや少し大きめのサイズの服や靴下を選んでいます。→「締め付けなくて、とても楽。すごくうれしい」そうです。
※理科での実験(静電気)や学芸会での服装について前もって相談させてください。

■項目:全体像をとらえる事の難しさ

現状と問題:細部に焦点が当たりやすく全体が見られない。集中をするあまり、ものを壊したり、探せなかったり、人をけがさえたりすることがある。

家庭・学校での工夫とお願い:細部のもの一つ一つがとても鮮明すぎて全体的に見ることが難しい。(家)大きな段ボールをパーテーション代わりにして作業スペースを仕切る。→「すごく集中できるようになって嬉しい!」シンプルな環境だと集中して取り組める。

と、いくつかの項目について、記載させて頂きましたが(全部を記載した訳ではありません)

多くのサポートブックの場合、項目の記載はあっても、それが具体的にどう困っているのかが書かれていない場合がほとんどで、それを受け取った先生も「じゃあ、どうしたらいいのか?」が分かりません。

ですが、kokoroさんが作られたサポートブックは、実際にどんな場面で子供がどう感じているのか?又、例としてこんな事があった・・・という事まで記載されています。

又、その上、家庭でこのようにやってみたらよい結果が現れた。不安を払しょくできた。学校でもこんな風に接してくださると対処しやすいと思います・・・のように、先生にも具体的な行動をするうえで参考になる事が書かれているのですね。

当初、kokoroさんから頂いていていた「どうしてもきつく怒ってしまう、怒りが止まらない」というご相談は今はありません。

それより、娘さんの特性に合わせて、どうやったら子供が安心できるか、過ごしやすいか、能力を伸ばせるか?だけに集中して、子供と一緒に歩むことを選択してくださっています。

もちろん、そのおかげで娘さんは、kokoroさんが無理だろう・・・と思っていた、自転車、逆上がり、水泳、勉強など、沢山の事ができるようになっています。

いかに子供の事を良く知って、サポートをしてくださる事が、子供の力を発揮することに役立つか、私も改めて感じる事ができました。

kokoroさんも「このサポートブックが、いつの日か、1枚ぐらいになればいいなぁ」と頑張って下さっています。

そして「たくさん困難はありますが、早くに診断がつき 子供の特性を理解しサポートすれば 社会への適応力を上げることはできます。頑張る方向さえ間違わなければ 結果は確実にでます」

「発達障害があるからこそ 秘めている可能性はたくさんあります。明るい未来も希望もあります!これからも、我が子とひとつひとつ乗り越えていく覚悟です」とも言われていました。

親はもちろん、周りにいる大人たちが、子供を理解し、少し援助しながら力を伸ばしていく・・・是非、そんな子供たちを増やしてほしいと思いますし、そんな環境がもっともっと増えてくれると嬉しいです。

kokoroさん、貴重なご報告、そしてメルマガ掲載のご許可をありがとうございました。

※ ご興味がありましたら、ご覧ください。

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